
時折、台本の自分のセリフに「印」をつける人がいます。これはプロ、アマ問わずにです。
また少し演技をかじった初心者に多いように思います。だから台本を見て、セリフに印を付けているようなら「あ、初心者だな」とわかります(笑)

二人芝居なら交互に印をつけることになりますが、そもそも、二人芝居なら「相手のセリフの次は自分だ」と、たいてい決まっているので印を付ける必要がありません(笑)
さて、よく「セリフはキャッチボールだ」と言われますが、これも「な〜んとなく」意味合いを感じる表現で、実は恥ずかしながら私もそのように指導したことがありますが、やっぱり曖昧です。
そこで私は最近の風潮に鑑み、セリフは「送受信」あるいは「入出力」と表現しています。
つまり誰かからのメールを受信(自分の頭に入力)して、その内容を把握して(考えたり判断したりという処理)、返信する(自分の考えを出力)という通常のコミュニケーションと同じだと考えるのです。
逆に自分から何かの意志を発信(出力)して、相手からの返信(入力)を待つと言うこともあります。
自分から意思表示の行動がある場合(送信)と相手からの意志を受け取る場合(受信)があるということですね。
ですから、セリフの場合ですと、「自分がセリフを言う」ときには何かしらの「強い心理行動」がまずは必要です。逆に「相手のセリフを聴く」というのはそこにある相手の意志をしっかり汲み取ることが重要です。
さて、標題に話を戻しますが、「自分のセリフに印をつける」ということの問題です。
おそらくこれは「段取り」(間違いなく自分の出番でセリフを言う)を優先させた行動なのでしょう。
演技の練習時間が十分にとれず、表現よりも段取りを優先させるテレビドラマ、ラジオドラマ、吹き替えなどのいわゆる「仕事の現場」などではありそうなことです。
しかし、「自分のセリフに印をつけ」るということは、意識が「出力(送信)」にしか向かっていないかもしれません。
私たちは自分から自分へ働きかけ(自問自答)をしたり、相手からの働きかけによって心を動かします。
つまり何かしらの自分への働きかけがあって初めて「心を動かす」ということになるのです。
このことを端的に言い表したのが「演技で重要なのは相手のセリフを聴くことだ」という言葉です。
セリフに印をつけるという行為は「聴く」(受信)ことよりも「言う」(送信)ことに重点が置かれている状態です。
その結果、そういう俳優の演技は相手のセリフとかみ合っていない表現になりがちです。つまり、「相手のセリフを聴いていない」ので、相手がセリフを間違っても「台本通りにセリフ」を言ったり、相手の演技を受け取らず、自分で考えて来た「言い方」しかできないということになるわけです。いわゆる「自己完結型演技」ですね。
どうせなら、自分の心が動くような、自分が心揺さぶられるような「ほかの登場人物のセリフ」にマークを付けたほうが効果的だと思います。
お試しあれ!

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