私は演劇を「している」にもかかわらず「観る」のは苦手で、実は今もそうです(笑)
だって…おもしろくないのが多いので…。
演劇も芸術のひとつで、芸術と言うのは原則として「おもしろくないとアカン」という考えでしたし、これは今も変わっていません。
「金を払って難しい顔をして観なきゃいけない演劇なんぞはあってはならない」
さて、そんなわけで私は別役実作品も観たことがありませんでした。
ところがそんなある日、知り合いが出演すると言うので義理で観に行くことにしたのです。
初めて「別役実作品」を観劇します。
ところが……案の定……とてもじゃないけれど5分ともちませんでした(笑)
今も「おもしろくない!」と思ったら芝居の途中で帰りますが、この時は何しろ「初めての別役作品」だったし、まだ義理に縛られていた時期だったので最後まで観ましたが、体調を悪くしました。
とにかく「判で押したようにセリフの終わりに妙な間」があるのです!
結果的に「無言の間」が芝居の随所に入ります。
無言というのはそこに「言葉にならない思い」が表現されるものです。単発的なものなら「ああ、きっとこの人物はこんな思いでいるのだろうな…でも、言いたいことが言葉にならないのだろうな…」と忖度できますが、のべつ幕なしにあると、こちらはしょっちゅう人物の思いを忖度しなくてはならず相当に疲れてしまいますし、物語の内容の理解まで手が、いや頭が回らなくなります。
その後も別な別役作品を観る機会がありましたが、例によって「無言の間」ばかりで、そのうちたとえ義理があっても「別役作品」と聞くだけで断るようになりました。
そんなある日、ある劇団から私に「別役作品」への出演依頼が来たのです。とうとう来るべき時が来てしまいました(笑)
もちろん「別役作品」だからと言ってずっと避け続けることは私も俳優のはしくれとしてプライドが許しません。思い切って出演することにし、台本を受け取りました。
こわごわ本を開くと………
ははは、これまでの謎が解けました(笑)
別役氏の作品を読むと、ほとんどのセリフの末尾に「…」が書いてあるのです。たとえばこんな風に…
男1「こんばんは…」
男2「こんばんは…」
男1「寒くないですか…」
男2「(ちょっと考えて)なにしろ冬ですからね…」
ほらほらほら〜
夜で、冬で…これだけでも「暗〜い」印象が生まれますでしょう?
そこにもってきて末尾は「…」ですからね?
新劇では「台本至上」の人が多いようで、セリフのあとの「…」は「無言の間」と解釈して、必ずと言っていいほどそこでは間を取ります。この結果、別役作品は「妙な間」がやけに多い、テンポの重い芝居になってしまうのです。
もちろん台本しか演技を作る土台がないので、台本を大切に扱うことはいいのですが、「決まり切った読み方、解釈」をするのはいけません。
私は初めて読んだ別役作品の文体を見て、「言葉(セリフ)はさまざまな思いの一部を音声化したもので、すべてが音声化されるのではない。その結果の文章表現としてセリフの末尾に〈…〉がついているのだ」と解釈しました。
ですから「…」を物理的な「間」だと考えずに、「音声化されていない言語」だと解釈すればいいのだと思います。
さっきの男1、2のやりとりを映像化しやすいように書いてみます。
男1「(半袖Tシャツと半ズボン、サンダル履きで、震えながら登場し)こっ、こっ、こっ、こんばんわ〜わ〜わ〜〜〜〜」
男2「(分厚いコート来て、余裕たっぷりな笑顔で)こんばんは〜」
男1「(ガタガタ震えながら)さ、さ、寒、く、な、な、ないですか?」
男2「(「そんな格好なら寒いのは当たり前じゃないか」と思うが、気を使って)なにしろ冬ですからね…」
ね?
バカバカしいでしょう?
残念ながら私の初めての別役実作品の出演では演出の要望で「…」でたっぷり間を取ることになってしまい、それはそれは「重〜い、思〜い」作品になりました。
そういうこともあって、その後、私は別役氏の作品を4作品ほど自主公演して演出もしました。(いずれも上演許可は取りましたヨ)
お陰さまで、どの作品も観客には大笑いしていただきました(笑)
中でも中学生くらいの集団が大爆笑してくれたことはとても嬉しかったものです。
ただ、年配の別役作品のファンからは「別役作品の持ち味を失くしている!」とお叱りを受けました(笑)
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