そして、人間の行動というのは、多くが他者、あるいは外界とのコミュニケーションの上で起こります。
ところが演技をなさるかたの中にはその「コミュニケーション」を二の次にして、自分だけで「表現方法」を考えようとする人もいます。
尤も、演技の練習は共演者全員でできる機会がそれほど多くないという事情もあります。つい「自分だけでなんとかしよう」となさるのもわかりますが、セリフは言い方で成立するものではないということを理解なさったほうがいいでしょう。
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「相手役の表現とは関係なく、自分だけで表現および意味を完結させる」
演技は「決められた段取りを間違えずに実行する」ものではりません。「稽古」も「段取りを固めること」を優先させてはいけないのです。
ジャズやフュージョンなどの演奏でもそうですが、基本的な楽曲(演技で言えば台本が相当するでしょう)はあるものの、その音楽の流れは演奏者の「アドリブ」で構成されています。共演者の「アドリブ演奏」を「よく聴いて」、それを受けて「自分のアドリブ」を展開させます。これがセッションです。
ですから極論すれば「セリフは全部アドリブだ」というのが私の考えです。
ただし、「アドリブ」だからと言って好き勝手にセリフを変えて良いということではありません。「変える」のは事前に何らかの意思や考えが働いて「意図的に変更」するものであり、「変わる」のは「その瞬間の心の動きに伴って自然に起こる」ことです。
ただ、そのことに依って「内容」が変わってしまってはいけません。だからセリフの間違いは共演者皆でチェックしなければなりません。セリフが台本に書かれたものと変わるのは、受け取り方、言いかえれば「こころ」が違っていることが多いのです。
「自分の演じる役のセリフ表現」を工夫するというのは大切なことですが、「言い方の工夫」は相手役が発する表現(こころを表に現すこと)との整合性がとれないことが多くあるのです。これを「(表現が)かみ合わない」と言います。スポーツなどの団体競技において言えば、「自分のプレーで自分で満足できればいい」という姿勢です。
例えば自分のセリフにマークをつけている人はその可能性があります。
「マークをつけるな」ということではありませんが、むしろ意識としてマークすべきは他人(共演者、相手役)のセリフです。
では、どうすればいいのかというと、まずは「相手(役)の言葉をしっかり聴く」すなわち「受信」することです。相手の言葉を「受信」して、自分の「役の脳」でその意味を理解(処理)し、それから言葉を発する(送信)するというコミュニケーションの基本システムをしっかり実行なさったら良いと思います。
【対策例】
@明確に「役作り」をする。
A「言う(送信)」より「聴く(受信)」を優先させ、「役の頭で考え、感じること(処理)」を最優先させる。
B展開の予定を立てず、新鮮に反応する。そのために、実演時には「台本の中身を忘れる」ことが大切です。
※私は「セリフは覚えるものではない」と言います。
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