しかし、そもそも「表現とは何か」がわかっていないと表現のしようもないのですが…(笑)
私は世間で「な〜んとなく言われていること」に明確な意味を持たせようとがんばっています。
そんなわけで私は「【表現】というのは、こころを表に現すこと」と定義しています。
この場合の「こころ」とは単に「感情」ということではありません。
まずは「考え(思考)」ありきです。その「考え」が順調に展開すれば「喜ぶ」かも知れませんし、うまく進まなければ「困る」かも知れません。さらにその「困る」という状態が悪化すると「怒る」とか「悲しむ」という感情を表す動詞に変化することが考えられます。
いずれにしろ「思考」が様々に変化し、その「思考」が明確に表現されていることが重要です。
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「表現の変化が乏しい」
この問題に対応する時に、多くが「言い方」や「やりかた」に陥るのです。ナレーションなどでもそうですが「(表現が)違う」と言われた時は、表現の本質である「考え方」「感じ方」「価値観」を変化させるとスムーズです。なぜなら「言い方」を変えても、実はそれによる本質的な表現の変化は少ないからです。
しかし、「考え方」「感じ方」「価値観」をすぐに変化させられないという人は、まずは「メイン動詞(見て、聞いてわかる外面的動詞であり、絶対に実行するべき行動)」と「サブ動詞(表現に膨らみを持たせる外面的動詞で、内面に関わる動詞を特に「サブテキスト」という)」を台本から読みとり、それを明確にすればいいでしょう。特に重要なのは「サブテキスト(心理を表す動詞)」です。
新美南吉「売られていった靴」の冒頭のセリフを用いて説明しましょう。
新美南吉「売られていった靴」(冒頭)
靴屋(くつや)のこぞう、兵助(へいすけ)が、はじめていっそくの靴(くつ)をつくりました。
するとひとりの旅人(たびびと)がやってきて、その靴を買いました。
兵助は、じぶんのつくった靴がはじめて売れたので、うれしくてうれしくてたまりません。
「もしもし、この靴ずみとブラシをあげますから、その靴をだいじにして、かあいがってやってください。」
と、兵助はいいました。
セリフは「もしもし、この靴ずみとブラシをあげますから、その靴をだいじにして、かあいがってやってください。」です。メイン動詞とサブ動詞、およびサブテキストを一覧にしてみました。

サブ動詞は演じる俳優の個性や解釈、また演出の意図によって変化しますし、複数ある場合は、どのサブ動詞を組み合わせるかによっても最終的な表現は変化します。料理で言えば「材料(メイン動詞)」と「合わせ調味料や付け合わせ(サブ動詞)」の関係です。しかし、それぞれの「動詞」を明確に実行することで「表現」が明確になります。
以上のことから「表現の変化」というのは「動詞(行動、行為)の変化である」と理解したほうがいいでしょう。その「行動の変化」が明確かつ、素早くなされているのを「演技のキレ(が良い)」と言います。また、動詞(行動)、中でも「サブテキスト(心理的サブ動詞)」が明確かつ的確に展開されているのが「うまい演技」であるということだろうと思います。
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